横山武史騎手が持つもの

武史騎手の2020年

横山武史騎手は、2020年、JRA競走で94勝を上げ、史上最年少の22歳での関東リーディングジョッキーのタイトルを獲得しました。郷原洋行(元)騎手が1967年当時23歳で79勝を上げて関東リーディングを獲得して以来の記録更新です。


ショーヒデキラ号と横山武史騎手

騎乗の姿

2020年の彼の騎乗はからは「勝ちたい」という彼自身の意思を強く感じました。


ゴール板を横切るまでは、一つでも上の着順を目指す、粘り強く簡単には競り負けない突き抜ける勢いのある競馬をします。
それでいて、馬に無理をさせてしまうような騎乗も見受けられません。
騎乗フォームなど身体の使い方は全体的に靭やかです(レース後半で崩れてしまうこともあります)。


騎乗レースが続いても、一長一短な競馬を繰り返すことも殆どありません。


スタートでゲートを出るときには、特段力む姿は目にしたことはありません。
馬が馬銜(ハミ)を取るの待ち、素早く折り合いをつけます。
馬との折り合いをつけた序盤では、他の馬との位置取りを目視したり、他の馬の進路妨害や、自分が危険なところに位置していないかを確認しています。


レース中どのタイミングで馬の力を使うか、どのタイミングにどの位置で競馬を進めるかなど、レース中の判断は良くも悪くも素早く潔いものです。


躊躇することのない、強気の騎乗が持ち味です。


騎乗を重ねるごとに何かしらの思考実験をしているかのようで、常に”今”と戦っているような姿も目にします。


横山武史騎手の2021年1月中山競馬場での返し馬の姿

札幌 函館

武史騎手は、函館の夏競馬で勝利数を増やし、その才能を一気に開花させました。


前団の好位置をキープする先行有利の競馬で勝利を重ねました。


函館競馬は、3、4コーナーがスパイラスカーブ(カーブの径が小さめ)のため、コーナー進入の際にスピードを落とさずに走行できます。コーナー出口のカーブが急なため、外に広がり(膨らみ)易く、馬群も散らばり易くて進路が開けます。
前団で馬の力を抱えるように温存、脚を溜め、馬群がバラけたときに、一気に溜め込んだ力を末脚で活かし駆け抜けます。
芝コースでの時計が掛かる馬場状況になると、先行有利の要素はより強くなります。最後まで力を貯めたところで、先頭まで届かないことがあるからです。


函館競馬での勝利や好走に繋がったのは、洋芝がメインの函館競馬場での掛かる馬場であることを理解し、武史騎手の前団で攻めに行く競馬のスタイルが合致したからなのかもしれません。



中山

先頭に立つシェダル号と横山武史騎手中山競馬場は、特殊な形状と勾配のある競馬場ですが、3コーナーからゴールまで続く勾配のある坂は、JRA主催のレースが行われる全10場の中で、最も勾配のある坂を有するコースです。


他の競馬場と比較すると、レースを形成する集団の前の方で競馬をすることが有利に運べる要素の一つです。
4コーナーに差し掛かったときに、後方にいつことは、前を追う馬と立ちはだかる坂の両者を目の前にすることになり、体力的、脳力的、精神的に強い馬でなければ勝負にならないからです。


中山競馬場もまた、武史騎手のスタートから前でレースを進めていくスタイルや最後まで諦めず追うスタイルとの相性がよく、積極的な競馬ができるのかもしれません。


2019年中山競馬場ターフ風景

東京

ゴール前の長い直線勝負の東京コースでのレースでは、この直線で末脚を活かし勝利する姿が多く見られます。

それを逆手にとって、レース序盤から先頭に立って押し切ってしまうというレースを展開することもあります。
東京競馬場は最後の直線が真っ直ぐ長く横幅も広く、あらゆる展開が予想され、期待も広がります。


また、重賞やG1レースの開催が多い競馬場で、激戦を勝ち抜いたタイプの異なる馬が集結することも多く、相手を見て戦略的に競馬を運び組み立てる能力もより必要性を増します。


潔く前を進んで行くレースでは通用し難いのは、得意不得意はありますが、芝の種類、コースの形、高低差、どれをとっても10場と比べてそれとなく平均値をとっていて、どの馬も順応しやすいという印象があります。


重賞(GⅠなどグレード)レースが多く、開催日数も多いコースなので、相手も強くなり、様々なタイプが集結します。
そのため、相手との力関係、相手のペース配分や位置取りを想定するなど、相対的な要素でレースを運ぶことが求められます。
騎乗する馬のことを理解、研究すること、相手となる馬のことも同じように研究することも、時として必要です。


何度か騎乗して掲示板を確保できなかった馬でも、どんなタイプの馬でも、その馬の能力を最大限引き出し、どんな馬にも適応して勝つことを目指す武史騎手にとっては、今後の鍵を握るコースです。


東京競馬場のフジビュースタンド5階席からの眺望

新馬戦と未勝利戦

武史騎手は新馬戦や未勝利戦での勝利がその多くを占めています。


2020年までは、OPクラス以上の騎乗よりも、未勝利戦や1勝、2勝クラスでの騎乗経験が多く、そこで勝利数を重ねてきました。
新馬や未勝利馬、実戦経験が浅い馬、勝ちきれずにいる馬への順応性は高いところにあります。


シャイニングライトと横山武史騎手未勝利戦スタート後1周目スタンド前
シャイニングライトと横山武史騎手未勝利戦ゴール直前

所属厩舎

デビューする若手騎手たちは、誰もが実績がなく、実戦経験がなく、経験豊富とは言えません。
そこで管理厩舎は大きな役割を果たします。


勝ちたいと思うのは、馬主、厩舎陣営、騎手たち、誰もが同じです。
ベテランの騎手たちに騎乗を依頼すれば、それは当然のことながら勝利には近づきます。


そのハンデを乗り越えるために、若手騎手には減量制度があり、若手騎手が所属する厩舎は、その減量を考慮して騎乗させます。
若手騎手は、減量がなくなる勝利数(JRA通算100勝 かつ、免許の通算取得期間が5年未満:2021年1月末日現在)までに経験を積み、厩舎も積極的に騎手を育てます。



横山武史騎手の所属する鈴木伸尋厩舎は、過去にも津村明秀騎手を所属騎手として育て上げて無事フリーへと転身させてきました。


横山武史騎手の一日の騎乗数が増え、落馬や騎乗停止や惜敗などが続いたときに、今の状況に対して言及し、騎乗数は適正範囲内で調整し、勝敗にこだわるならば取捨選択を明確にする旨、ご指導されたようです。


師弟関係が健全で、お互いに所属厩舎の縛りに固執することなく、プロフェッショナルとして尊重し合い、ぞれぞれのレースに徹しているからこそ、必要な意見を交換して成立しているのだと思います。


結果として、横山武史騎手の関東リーディングの獲得、
鈴木伸尋厩舎の2018年からの年間勝利数も20勝前後で推移、2016年のリーディング3桁順位から2017年には二桁順位へと回復し、
安定するようになりました。


特に、近年、同一厩舎での上位拮抗のリーディングとなっている中で、年間の勝利数において安定した数字が取れるようになったことは、在る種の結果です。


アポロドリームと横山武史騎手と鈴木伸尋先生

勝ちにこだわる

競馬では勝敗があって、たとえその差が鼻先であっても報奨となる賞金額は、1着賞金額と2着で大きな差があり、2着賞金額は1着賞金額の50%にも満たないものです。
それが鼻差であっても大差であっても賞金に変わりはありません。結果は結果です。
鼻差でも1着と、2着以下の評価は「Yes」か「No」かと同じで、全く違うものなのです。


勝ったときには大いに歓び、負けたときは速やかにその悔しさを秘めて、ターフを後にします。



勝ちたい、勝つことが楽しい、悔しい、次は勝ちたい。次も勝ちたい。

競馬が目的で、これが武史騎手にとっての生きるための水なのだと思います。
これ以外には多くを望まないし、それ以外の術は多く持たないのだと思います。


誰かに比べるものではなくて、「競馬が好き、勝ちたい」、思いを表現できる騎手です。


当たり前に表現できる素直さに、心をすべてさらわれてしまっても、それがただただ心地よく、応援してしまうのです。




Thanks.