Decamber 31, 2020

Horse Racing

一番前を走りたい

本能が支えるもの

走る歓び

今日は、わたしにとって、大事な日でした。


休み明け2戦目パドックでのカフェクラウン

その日は3場開催の偶数開催日(日曜日)で、中京競馬場に、同一冠名(同一馬主)を持つ馬が数頭、同一の厩舎から、それぞれの異なるクラスのレースに出走が確定していました。

この数頭の中に、前回のコラムで綴った馬の出走が確定していて、休養明けの2戦目を迎えようとしていました。

彼は、復帰初戦の前走は、掲示板を確保できませんでした。
1年半以上に及ぶ休養後の初戦は、気持ちと馬体の状態も本調子とは言えるものではなくて、ちぐはぐな競馬になってしまいました。
末脚は残していましたが、ゴール前で息切れしてしまったようで、ほかの馬に相対して目立つ末脚を見せることができませんでしたが、前を追うことを止めず、ゴールの先まで突き抜けていきました。
気持ちは前向きで、馬体も既に該当クラスで勝ち上がれる水準までは戻っているような気配は感じられました。
毎日の調教で、基礎体力を向上さてそれを維持、継続していくことや、心肺機能を強化する坂路調教で、その日毎に目標値を定めて、段階的に目標値を確実にクリアすれば、高い目標も手が届くところになっていきます。
勝利イメージが具体的に描けるようになりました。
この先2戦目までに1着を取れれば、彼自身の自信にもなって、更に上を目指せると思いました。
容易とは考えていませんが、時間とともに実現するイメージさえ湧いていました。
勝ち星を期待させる材料を、確実に残していました。

そして、迎える復帰2戦目にあたるレース前の追切では、G1レース出走馬との併走でしたが、そのG1レース出走馬よりも、遥かに鋭い動きを見せていました。
追切の中盤から終盤にかけてのストライドの長さ、前肢を前に出す角度や滑らかな駆動、ブレない体幹、ハミ受けと首の座りの具合、これらのバランスが、すべて噛み合っている状態でした。
他の馬に比べる相対的な評価ではなくて、彼自身の絶対値として評価してもいい、元気いっぱいで良好な状態でした。

彼の魅力は、走りたいという本能がすべてを司っていて、素直にその走りができることです。
この走りたいという本能が、彼の馬体と携えている潜在能力、精神をバランスよく保つ機構を設計しています。
馬にとっては、走ることが本能に直結していて、生きていることや、歓びそのものでもあって、調教で走らされているという印象を受けたことは皆無です。
本能に逆らうこともなく、人間の指示に対して従順でもあることが、彼のありのままで、ストレスの少ない状態です。
走ることへ向けられるエネルギーは、彼の馬体を抜け出して、それが目の前でみる姿でも、画面越しでも、強い圧のようなものとなって訴えかえてきます。

「走りたい、誰よりも前を、一番前を走りたい、負けたくない、一番前になるまで走ることは止めたくない」
この湧き出る熱量こそが彼の才能、素質で、言葉で言ってしまえば簡単なことですが、簡単に言えてしまうように見せられることも才能で、突き抜けたものがあります。


騎手との関係

レースでの騎乗を務めてくれる騎手は、前日開催の悪天候での騎乗と他場への移動、連日にわたるG1レース騎乗や歴史的偉業達成へのプレッシャーからの開放で緊張の糸が切れたのか、体調は万全ではないようでした。
騎手と競走馬、両者に無理はしてほしくないのですが、プロフェッショナルたちはフィジカルもメンタルも管理、コントロールすることが求められます。
この日、この騎手は、最終レースを残して勝利はありませんでした。


レースのスタートは前団で3番手という絶好のポジションにつけました。
ここからレースは流れ、ゴール前2ハロンから繰り広げられた1、2着争いで、彼と先頭を走るもう一頭との叩き合いになりました。
ワイドカントと叩き合で競り合うカフェクラウン
この騎手らしい本来の歯切れのいい騎乗ではなかったかもしれませんが、鞭を何度か入れられてからは、馬が「わかったよ、負けないよ」と、競り負けず引き下がることはなく、鼻差、先頭ででゴールを駆け抜けました。
ゴールの瞬間、少しだけ緩みを感じたレースでした。
ダイナミックなこの馬らしい走りとは少し違いましたが、疲れ切った騎手を安全にゴールまで誘うような、心のやさしさが表れた走りでした。

ゴール前で差し切ったカフェクラウン

過去にこの馬に騎乗した騎手たちは、G1勝利の経験がある世界屈指の騎手たちです。
怪我をしたレースも同様、外国人短期騎手免許を取得した騎手が騎乗して、騎手の無難な判断により、ゴールまで安全に誘われました。
復帰初戦でも、本年のリーディングジョッキーが騎乗して、無理をさせることなく確実にゴールまで誘われました。
彼に騎乗した騎手たちは、彼に無理をさせることもなく、またいつでも競馬で出走できるように、走りたいという本能を殺さずに騎乗してくださいました。
彼は、騎乗した騎手たちの思惑を察していたのかもしれません、
復帰2戦目では、関わる人たちの思いを巻き込んで、一身に背負って走っていたのかもしれません。
そう思うと、なんて賢い馬なんだろう、、なんて愛らしいんだろう!と思わざるを得ません。


謝辞として

役割

しっくりくる言葉がみつかりません。


強くて、もろくて、馬らしくて、馬らしくない、経年変化で心身ともに成長していく、想像もしなかった競走馬の姿に、漠然と心動かされました。

彼は、生きていることを素直に歓んでいて、その歓びを走ることで表現できて、それを活かせる環境に恵まれていて、彼自信が自分の役割を悟っていて、それを人間側も知っているかのような、この一連となった環(わ)は、彼の人徳ならぬ馬徳です。
わたしの心でいつも何かを動かしている不思議な存在です。
彼の存在とその才能は計り知れないところにあって、未知数であることに変わりありません。


彼がまたたくさんの人たちに称えられる日が来るように、彼と一緒にもっと上を目指します。
彼が自分の役割を果たすように、わたしも自分の役割を果たしたいです。
たくさんの人が、彼らの姿に感動して、それがその先にあるまた別の人に繋がって巡っていきますように。


彼の一番前を走りたいという姿は、たくさんのものを支えています。



Thanks.

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